はじめに 進化の話の前に) 進化について注意することをおさえておきたいと思います

ここに書くことは「常識だ」と一笑に付されそうですが、それゆえに基礎的なこととして重要であり、また錯覚しやすいことを理解して欲しいと思います。多少がまんして目を通してください。

ダーウィンの「種の起源」以来、生物の進化に関する議論は星の数程ありますが、いずれも基本的な点で抜け落ちているか、あるいは錯覚している点があると私は感じています。それは、共通の基盤があやふやでそれ故に独りよがりの議論となっているのではないかと言うものです。
 進化の研究は多様ですし、進化に対する見方も多様であってよいと思いますが、共通の基盤が不安定ですと話が一方的になってしまう、ということです。

進化を語るうえで共通の基盤に立つためにまず心にとめるべき点は、時間の捉え方、用語、論じる者の立場、専門性、さらに哲学(考え方)です。

時間用語:時間のスケールは化石と現生の生物では全く違います。しかし時間は数値で捉え易く、実感を伴わないため、化石と生きている生物の同じような現象を同じ用語で語り、「同じだ」という錯覚と混同につながり易い、というものです。

我々の、時間を初めとするものの捉え方は、どうしても身近な生活から判断します。時間に関するならば我々の寿命が延びたとはいえせいぜい80歳くらいですし、生物の寿命は長くてもせいぜい1万年位です(この点は2で詳しく述べます)。 
 この現在時間の現象が
1000万年かけた化石と同じようにみえても、全く違う原因による可能性が大きいわけです。否、現在時間の現象が1000万年つづく可能性は殆どありません。ところが同じような現象であるため同じ用語を使い、よって「同じ法則だ」と考えてしまうということです。これが錯覚なのです。

私は地球規模の時間のスケールを、師匠(井尻正二)からの一言「御影石でも地球規模の時間(億万年、千万年と言う意味)をかければ曲がるのです」から学ばせて頂きました。時間のスケールによって法則が違うということです。まあ当たり前といえばそうなのですが、錯覚しやすいというものです。

繰り返しますが化石時間の何百万年あるいは何千万年という時間をかけた法則は、現在時間からすると全く未知の世界であり、また別の法則がある可能性がおおきいのだ、ということです。

また時間は数値で表されるため、1000年も1000万年も頭の中では違うと分かっていても、実感を伴わないのです。それは質的にはそれほどおおきな開きがあるとはみえないということです。それゆえに化石と現在の生物を比較する場合には、まず時間の違い、同じ用語でも意味が違う、できれば違う用語を使いたい、ということを念頭に置く必要があります。

専門性:巷間にあまた溢れる進化の本の内容にはそれぞれの著者の専門性が強く反映しています。体系的総合的な進化学は古生物学ならず、現生生物学である解剖学、発生学をはじめ、生理学、生態学、遺伝学、分子生物学などなどが必要です、しかし、これらをすべて極めた人間はまず地球上にはいません。
 
 ある学説を唱えたとしても彼の専門はこれらの学問の一つであり、専門以外の知識は本から吸収することになります。本というのは記述されたもので、これまたその本の著者の専門性が強く反映しています。そして読む側は、無意識的にそこに書かれている内容を自分の専門の視点、つまり篩(ふるい)にかけて判断し、自分の専門で組み立てるということになります。

ダーウィンが「種の起源」を実体験から組み立てたのとは違い、昨今の進化論の著者は本や論文から得る情報量が多くそれは実体験したものではありません。ですから、進化の諸説には著者の専門性が強く、色濃く出ている、ということが言えるのです。この点は、私自身の考えを反省するときにも重要な問題だと常に考えています。

哲学:どのような科学者でも専門の研究の基にそれぞれの学説を立てます。しかし、その専門分野は自然の体系からみればごくごく一分野です。他の分野はいきおい文献に頼ることになります。それでカバーできたとしてもまだ自然の体系の大海の一滴にも満たないでしょう。未知の膨大な領域を乗り越えて進化を体系化し普遍的な進化の理論に昇華するためには思考の学問、つまり哲学に頼らざるを得ません。私は、これが進化論の神髄とも言える、と考えています。

私の基盤:私の研究の対象は脊椎動物の歯です。人体解剖学(細胞学、発生学、系統解剖学)と比較解剖学(ちょっと古生物学を齧り)を学び教育研究を行ってきました。歯を選んだのは、歯は体の他の部分より化石として発見されることが多く古生物では分類の基準となる重要な対象であること、化石も現生生物の歯も形から細胞レベルあるいは原子レベルまで、ある程度同じ視点で比較する、つまり総合的に比べることができること、などからです。

私がこれまでに行ってきた歯の研究は約200種弱、発生は約30種の動物です。これは残念ながらダーウィンをはじめとする先達の足元にも及びません。しかし、古生物と現在の生物の組織、細胞、発生を直接比較してきたことに特徴があると密かに自負しています。私の話はこの仕事を基礎としていることをご承知おきください。

私の進化理論:次に私の進化にたいする結論を示しておきますので、ここに検討する各項目の議論でこれが妥当であるかどうかお考えいただければ幸甚です。

つまり「生命の進化は、不安定から安定へ、均衡(平衡)状態への生命の様式における変化であり、これを担保するのが対称性(バランス)である。」ということです。この根拠となるのはこの進化の基本原則が地球でも宇宙でも、つまり物質界でも同様である、というものです。如何でしょう?

 

ここに書いた内容はかなり要約したため今後、徐々に議論を深めたいと考えています。是非ご意見、ご質問を下さるようお願いします。